ドローン事故が起きたら?運用者の義務と現場でできる応急手当【DEC講習とは】
2026/08/18
ドローンの飛行中に人身事故が発生した場合、操縦者には航空法第132条の90により「負傷者の救護」「危険を防止するための措置」「国土交通大臣への報告」の3つが義務づけられています。このうち救護は、救急隊が到着するまでの数分間を、現場にいる人間が担うことを意味します。
この記事では、ドローン運用現場で実際に起きている外傷の種類と、事故発生時に組織として何を整えておくべきかを、東京で唯一のDEC(Drone Operations Emergency Care)認定校としてお伝えします。
なお、ここで身につく技術は職場や家庭、そして災害時にもそのまま使えるものです。
ドローン事故で運用者に課される3つの義務
航空法第132条の90(事故等の場合の措置)は、無人航空機の飛行により人の死傷や第三者の物件の損壊などが発生した場合、操縦者に次の対応を求めています。
| 義務 | 内容 |
|---|---|
| 負傷者の救護 | 直ちに飛行を中止し、負傷者を救護する |
| 危険を防止する措置 | 二次被害の拡大を防ぐ措置を講じる |
| 国土交通大臣への報告 | 事故の発生日時・場所・状況等を報告する |
注目すべきは、「救護」が報告と並ぶ独立した義務として定められている点です。報告は事後に書類で行えますが、救護は事故が起きたその場、その瞬間にしか実行できません。
つまり法令は、操縦者に対して「救急車を呼ぶ」以上のことを求めています。到着までの空白を誰が埋めるのか——業務としてドローンを飛ばす組織は、この問いに答えを用意しておく必要があります。
国土交通省が公表する無人航空機に係る事故等の報告要領に、報告対象・様式・提出先が定められています。判断に迷う場合は所管の窓口へご相談ください。
何が「事故」で、何が「重大インシデント」か
無人航空機に関する報告制度では、報告対象が大きく2つに分けられています。
事故
- 人の死傷(重傷以上)
- 第三者の物件の損壊
- 航空機との衝突または接触
重大インシデント
- 航空機との衝突または接触のおそれがあったと認められる事態
- 無人航空機の制御が不能となった事態
- 無人航空機が発火した事態(飛行中に人が負傷した場合を除く)
「制御不能」と「発火」は、それだけで報告対象になり得ます。「誰も怪我をしていないから報告不要」という判断は、しばしば誤りです。
そして「発火」が明示的に列挙されている事実は、リポバッテリーの発火が制度側からも現実的なリスクとして認識されていることを示しています。
ドローン現場で起きる3つの外傷
ドローンの事故は、機械・電気・高所・化学という4つの要素が複合します。これは一般的な救護の想定を超える領域です。
回転中のプロペラによる切創・切断
起動時の誤操作、突風による姿勢の崩れ、離着陸時の接触——これらによる深い裂創や指の切断が、現場では実際に報告されています。
産業用機体のプロペラは高速で回転しており、接触した瞬間に組織を深く切断します。動脈性の出血を伴う場合、適切な止血が行われなければ数分で生命に関わります。
リポバッテリーの発火・化学熱傷
墜落による物理的破損、過充電、経年劣化により、リチウムポリマーバッテリーは激しく発火します。特徴は次の3点です。
- 消火が困難——内部で熱暴走が続き、一度鎮火しても再発火する
- 有毒ガスの発生——閉鎖空間では吸入による二次被害が起きる
- 化学物質を伴う熱傷——通常の火傷とは処置の考え方が異なる
「水をかければよい」という一般的な熱傷対応の常識が、ここでは通用しない場合があります。
墜落・落下物による頭部・体幹外傷
数kg級の機体が高所から落下した場合、頭部外傷や脊椎損傷のリスクは無視できません。
このケースで最も重要なのは、むやみに動かさないことです。良かれと思って傷病者を移動させた結果、脊椎損傷を悪化させる——救護の現場で繰り返し起きている二次受傷です。
「最初の数分」に求められる初期対応の原則
具体的な手技は実技訓練でしか身につきませんが、判断の原則は共有できます。
救護者が二次被害に遭えば、傷病者は増えます。プロペラが停止しているか、バッテリーが発火していないか、上空に別の機体がいないか——近づく前に確認するのが鉄則です。
一人で抱え込まず、役割を分担します。誰が通報し、誰が救護し、誰が現場を保全するか。事前に決めておかなければ、その場では決められません。
四肢の動脈性出血に対しては直接圧迫が第一選択であり、それで制御できない場合に止血帯(ターニケット)の使用が検討されます。
ただし止血帯は、装着位置・締め具合・装着時刻の記録・解除の判断すべてに訓練を要する器具です。誤った使用は組織の壊死につながります。器具を備えるだけでは意味がなく、使える人がいて初めて機能します。
救急隊への情報伝達には、MIST(受傷機転・受傷部位・バイタルサイン・実施した処置)のような定型フォーマットが有効です。混乱した現場でも抜けが生じにくく、引き継ぎの質が救命率を左右します。
一般的な救命講習では足りない理由
消防が実施する普通救命講習は、社会全体の救命率を高める上で極めて重要な取り組みです。ドローン運用者も当然受けるべきものです。
ただし、その内容は心肺蘇生とAEDの使用が中心に構成されています。
| 一般的な救命講習 | ドローン現場で必要 | |
|---|---|---|
| 心肺蘇生・AED | ◎ 中心的内容 | ◎ ベース技能 |
| 四肢の動脈性出血への止血帯運用 | △ | ◎ プロペラ切創 |
| 化学熱傷・電気事故への初動 | △ | ◎ バッテリー発火 |
| 高所からの落下外傷の評価・搬送判断 | △ | ◎ 墜落事故 |
| 現場再現型のシナリオ訓練 | — | ◎ 判断速度 |
これは優劣の話ではなく、設計されている想定場面が違うという話です。心停止への対応と、切創・発火・墜落外傷への対応は、必要な技術が異なります。
防災・減災でドローンを運用する組織ほど、備えが要る
災害対応、被災地の状況把握、インフラ点検——ドローンの社会的な価値が最も発揮されるのが、この領域です。
同時にここは、運用者自身が最も危険にさらされる現場でもあります。
| 通常の運用 | 防災・減災の現場 |
|---|---|
| 整備された環境 | 瓦礫・不安定な足場・倒壊のおそれ |
| 天候を選べる | 悪天候下でも飛ばす必要がある |
| 救急車がすぐ来る | 道路寸断により救急搬送が遅延する |
| 医療機関が機能している | 医療資源が逼迫している |
「助けに行った側」が傷病者になる
災害現場でドローンを飛ばす組織にとって、最も避けるべき事態は、支援に入ったチーム自身が負傷し、限られた医療資源をさらに圧迫することです。
救急搬送が遅延する環境では、現場で対応できる時間が通常より長くなります。都市部なら数分で到着する救急隊が、災害時には数十分、場合によっては数時間かかる。その間を埋められるかどうかが、組織の実力になります。
応急手当は「装備」である
防災・減災を掲げる組織にとって、隊員が応急手当を実行できることは、機体やバッテリーと同じ運用装備の一部です。
飛ばす技術と、守る技術。この2つが揃って初めて、災害現場で機能するドローンチームになります。
組織として整えるべき5つの体制
個人の技能に依存せず、組織として担保するために必要な要素を整理します。
| 体制 | 具体的に用意するもの |
|---|---|
| 1. 初動フロー | 誰が通報し、誰が救護し、誰が現場保全するかの役割分担表 |
| 2. 応急手当キット | 止血帯・各種ドレッシング・外傷観察シートを、現場に持ち出せる形で |
| 3. 訓練を受けた人員 | 現場ごとに、必ず1名以上の対応可能者を置く運用ルール |
| 4. 報告体制 | 国土交通大臣への報告手順、社内報告ライン、記録様式 |
| 5. 定期的な再訓練 | 技能は使わなければ失われる。年1回の再確認を運用に組み込む |
キットを買っただけ、マニュアルを作っただけでは現場は動きません。使える人がその場にいることが、唯一の実効性です。
身につけた技術は、現場の外でも生きる
DEC講習で学ぶ技術のうち、心肺蘇生、AEDの使用、出血への対応、傷病者の観察と救急隊への引き継ぎは、ドローンの現場に限らず通用する普遍的な技能です。
家族が倒れたとき。駅のホームで人が倒れているのを見かけたとき。子どもが大きな怪我をしたとき。「何をすればいいかわからない」と立ち尽くすのか、手が動くのか——その差は、訓練を受けたことがあるかどうかで決まります。
災害時、公助は必ず遅れる
大規模災害の発生直後、消防・救急・医療は同時多発する要請に対応しきれません。阪神・淡路大震災では、倒壊家屋から救出された人の多くが、公的機関ではなく家族や近隣住民の手によって助け出されたことが知られています。
この「最初の数時間」を支えるのは、その場にいる人の手です。止血ができる、気道を確保できる、動かしてよいか判断できる——そうした人が組織の中に何人いるかは、企業の防災力そのものと言えます。
DEC講習とは
DEC(Drone Operations Emergency Care)とは、ドローン運用現場の「最初の数分」に必要な応急手当を体系化した、現場特化型のプログラムです。
千葉県の株式会社ダイヤサービスが主催しており、当校(JUAVACドローンエキスパートアカデミー東京サテライト校/株式会社スカイブレックス)は、その東京で唯一の認定校として講習を実施しています。
カリキュラムの構成
- CPR / AED の基本——心肺蘇生をベース技能として確実に
- ターニケット(止血帯)運用——四肢への装着・解除判断
- 化学熱傷・電気事故対応——リポバッテリー発火、二次発火・有毒ガスへの初動原則
- 外傷評価とトリアージ——頭頸部・体幹外傷を見落とさない観察手順
- MISTでの引き継ぎ——救急隊への簡潔で抜けのない情報伝達
- 現場再現シナリオ訓練——実機・想定環境でのロールプレイ
開催形式
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 1日講習 | 7.5時間・実技中心・4〜12名推奨/29,700円(税込・お一人あたり) |
| Intro(2時間簡易版) | 導入向け・〜20名/11,000円(税込・お一人あたり) |
| 開催地 | 東京近郊へ出張。貴社オフィス・倉庫・訓練場・実運用現場 |
| 最低人数 | 4名から開催可能 |
※ 認定証発行・管理費 2,200円(税込)が別途必要です。出張費・会場条件等はお問い合わせください。
よくあるご質問
飛行を直ちに中止し、自身と周囲の安全を確保したうえで負傷者を救護します。同時に119番通報を行い、二次被害を防ぐ措置を講じます。事故の内容に応じて、国土交通大臣への報告も必要です。
いいえ。無人航空機の制御が不能となった場合や、機体が発火した場合は、人の死傷がなくても重大インシデントとして報告対象になり得ます。判断に迷う場合は、報告要領をご確認のうえ、国土交通省の窓口にご相談ください。
普通救命講習は心肺蘇生とAEDが中心です。DEC講習はそれをベースに、プロペラ切創への止血帯運用、リポバッテリー発火時の化学熱傷対応、墜落外傷の評価とMIST報告など、ドローン現場特有の初動を体系的に追加します。
現在は法人・団体向けの出張開催を基本としており、4名から実施しています。個人でのご受講をご希望の場合は、開催予定をご案内できる場合がありますのでお問い合わせください。
可能です。業種・運用機体・想定リスクをヒアリングしたうえで、貴組織の現場に合わせたシナリオを設計します。自治体・消防・建設・インフラ点検など、災害対応を担う組織からのご相談を歓迎しています。
おわりに
ドローンは、人が立ち入れない場所に行けることに価値があります。しかしそれは裏を返せば、何かが起きたときに助けが届きにくい場所で作業しているということでもあります。
飛行前点検を欠かさないのと同じ意味で、事故が起きたときに動ける人を現場に置く。それが、業務としてドローンを扱う組織の責任だと考えています。
「うちの現場ではどうすべきか」という段階のご相談でも構いません。まずはお気軽にお声がけください。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案への対応や医学的助言を行うものではありません。法令の解釈・適用については国土交通省の公表資料をご確認ください。応急手当の実施にあたっては、必ず適切な訓練を受けたうえで行ってください。
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SkyBrexドローンスクール(運営:株式会社スカイブレックス)
├ JUAVACドローンエキスパートアカデミー東京サテライト校(大人向け)
└ スカイブレックス KIDS DRONE 西尾久校(子ども向け)
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